見たまま 感じたまま

汐見稔幸と汐見和恵が思ったことを
つらつらと、おしゃべりするように綴ります。

2024年10月23日

確実に保育が変わる研修 

~保育者の自己意識の変容がある研修へ 

長年、たくさんの保育研修を行ってきましたが、最近とみに感じることは、「持ち帰り、また持ち寄って考える研修」いわゆる「往還型研修」と言われている形の研修こそ、受講者にとって有意味な研修になるということです。
1回だけの研修はどんなに素晴らしい内容であっても、そこから実際の保育が変化する可能性はそれほど大きなものではないようです。

それに比して「往還型研修」は実に大きな成果を生み出します。
研修は2回~3回、または4,5回、毎月などさまざまですが、いずれも前回の研修を持ち帰り、次の自分なりに次の研修に向けて保育を意識して行い、次の研修で共有します。研修後には、大なり小なりそこには変化が起きてきます。

もっとも大きな変化は、自己意識の変容です。
まずは子どもに目を向ける、自分を見つめる、保育を相対化する、保育のプロセスを意識するーこのような気づきを持って次の研修でグループワークを行い、お互いの気づきや実践の共有をします。次の研修では他者の実践を共有することで振り返りと今後の方向性を見つけ出すこともできます。

ある市では、年4~5回のリーダー研修を往還型にすることにより、リーダーの意識が大きく変わりました。子どもを大切にする保育とは、自分たちはどこを目指して保育をするのか、同僚性を育むにはどのような向き合い方をすればよいのかー自らの実践を振り返り、仲間と共有しながらその次を目指すという研修は、自らの変化を実感するだけでなく、地域のリーダー全体で目指す方向を共有するまでになりました。さらに、職場の変化をリーダー自身が実感しており、同僚性の構築にも多いに役立っています。
また、園内研修と言う形で毎月行っている園では、園の職員全員が子どもの育ちを大事にする保育とは、どこを目指せばよいのかを具体的な保育の中で確認し、共有しています。その結果、保育が変わり、子どもが変わる姿を目の前で見ることで、自分たちの目指している保育に確信が持てるようになりました。

所長 汐見和恵

2024年8月22日

子どもの人権を尊重するトイレ~韓国保育視察研究より~

2024年7月、韓国保育視察研修に10人の園の先生たちと行きました。                その時、先生たちの目にとまったのが男子トイレでした。男子便器1台ごとに衝立があり、プライバシーが守られていたのです。日本では腰掛ける便器は個室になっている園が多く、鍵がかかるようになっているのが一般的になりました。                                           しかし男子便器に衝立がついている園のトイレはこれまで見たことがありませんでした。                                 研修から帰国して数日後、東京都練馬区の豊玉保育園の園長、浅村都子先生から以下の写真が送られてきました。                                                       早々に男子トイレを改良したのです。なんというスピード感、良いことはすぐ実行という浅村都子先生の姿勢がこのトイレに表れています。

「プライバシーを配慮する」ことは、「人権を尊重すること」でもあるということは知っていても、男子トイレのプライバシーが守られていなかったことに気づかされたのです。

知っている、分かっていると思うことで、それ以外の視点で物を見ることができずに、かえって見えていないこともあるのです。                                           園の中で「せんせい」と呼ばれて、「今ちょっと忙しいから待っててね」と言いながら忘れてしまっている先生。子どもは待っていますよ。                                               そのことが人権侵害につながると思わずに、日常的にそんな言葉を子どもに言っていませんか?日頃、先生が子どものことばを大切に思って話を聞いていれば、「待っていてね」という自分の言葉にも責任を持ちます。用事が済んだ後で、「お待たせしました。さっきのお話は何だったの?」と子どもに伝えれば、子どもは自分の思いや言葉が大事にされていることを日々の中で実感します。                                       そのようにして育った子どもは、自分の思いや言葉を相手に伝えられるだけでなく、他者の思いや言葉なども大事にすることができるのではないかと思います。                     汐見和恵

東京都練馬区の豊玉保育園 男子便器改良前と改良後

改良前

韓国視察後、すぐに改良

改良後、プライバシーに配慮された男子便器

  

2021年3月6日

保育室に何をどう置くか?〜スウェーデンのプレスクールから考え方のヒントをもらう

2017年月末、新渡戸文化短期大学を退職後、家保研に軸足を移して活動する予定でしたが、フレーベル館から「子どもが育つ園を本気で作りたいので、園長を引き受けてもらえないか」と思いもかけないお申し出をいただきました。

園長を引き受けるなんてとんでもないと、最初はすぐにお断りするつもりでしたが、頭には「こんなふうにしたらどうだろうか」と次々とイメージが湧いてきます。断るつもりなのに。あれっ、変だなぁと自分でも自分の気持ちを量り切れずに半月ほどが過ぎました。「保育者養成校で教えていたことを実践で生かしてみなさい」と天から声が聞こえてくるような気持になりました。結局、大学の教員は口ばっかりだから、今度は実践しろということねと自分を納得させてフレーベル西が丘みらい園の園長をお引き受けすることしました。

ちょうど開園準備の年に出かけたのが、スウェーデンのストックホルムのプレスクールでした。

今回訪問したのは、レッジョエミリアアプローチを取り入れているプレスクール。イタリアのレッジョエミリア専門資格であるペタゴジスタ(教育学の専門知識を持って教育実践を指導する役割を持つ)とアトリエリスタ(美術専門教師)の両資格を持つ、Jane Wensbyさんに3つのプレスクールを案内していただきました。いずれも子どもの主体性を大事にした教育を行っている就学前学校です。今回はその3校の、主に環境構成に視点を当てて紹介します。良い環境があればよい教育ができるわけではありませんが、日本の園においてもヒントになるものがたくさんありました。

すべてに意味があり、意図がある

1.Förskolan Örnen (イーグル就学前学校)

2.Förskolan Aspen (アスペン就学前学校)

3.Snickerbarnens Förskolan (スニッケル就学前学校)

子どもが集めてきたどんぐり、まつぼっくりなどの自然物をみんなでみてみようという時。こんなふうに置けば美しく、系統的で、見ただけで子どもは自分なりに1つの概念の枠組みを持つことができるのです。

日本では大人が考えて“子どもにとって好ましいもの”を保育室に置いています。でも美しいもの、素敵なものは誰がみても素敵です。ネックレスやシルバーのチェーン、一緒に貝殻など・・・ここに光が当たると色が反射してとても美しい。それを感じるだけで充分なのです。

絵本をいつでも子どもが手に取れる場所に置くことはとても大事。日本でも最近はオープン式の本の表紙を前面にした本棚を置いている園も多くなりました。このように机の上に並べておく方法もありますね。日本の保育園でも見たことがあります。スペースがあればこんな置き方も子どもが手にとりやすいです。あるテーマを持って、その種の本だけ置くのもよいですね。

保育室に何をどのように置くか。そのものの存在が子どもの心にどう響くのでしょうか。それは分かりません。素敵!とか美しいとか、不思議、どうなっている?へんてこなの、触ってみたい、自分でも作ってみたい、試してみたい・・・

心がさまざまに揺れることこそが、子どもの感性に訴えるということなのだとこれらのものたちが訴えていました。ここにもこれは大人のものという発想の枠はありません。

<参考文献>
『スウェーデン保育の今 テーマ活動とドキュメンテーション』
白石淑江・水野恵子著
かもがわ出版 2013年

『スウェーデンに学ぶドキュメンテーションの活用』
白石淑江著
新評論 2018年   

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